塾頭の言葉
熾烈な競争社会の中でこそ目標を持って逞しく生きよ
今日ほど競争の激しい時代はない。よく言う「生馬の目を抜く」という形容にふさわしい社会である。人間の歴史が競争の中で成長・発展してきたことは事実であろう。特に我が国は、徳川幕府による二百十余年の長きにわたる鎖国政策のおかげで、明治以来その遅れを取り戻すため、欧米に追いつき追い越せの国策により、競争社会の風潮が尚一層醸し出されたことは否めない。
母の胎内を離れるや否や、名門幼稚園~小学校~中学校~高校、そして一流大学合格のためのデッドヒートが展開される。私達沖縄でも、他府県並みではないとしても少なからずそういう状況が、益々増幅されてきていることは事実である。私自身、このような異常なまでの競争社会は、肉体的にも精神的にも日々成長を刻んでいく青少年にとってその健全な発達のためには、決して好ましい状況であるとは思わない。何故なら、競争が烈しければ烈しいほど心の余裕を失い、他を思いやることは勿論、自らをも省みることすらできないからである。自分を素直に反省する心を失った人間に、他人に対する思いやりの心が生まれるはずはない。他人に対する思いやりを失った人間たちがつくる社会が、どんなに味気ない冷酷なものであるかは言うを待たない。
しかし、その反面競争社会の現実的意義を全く無視しては私達の今日の存在はなかろうし、明日の実りある展望も拓けない。
このような矛盾と複雑な社会の中に、生かされているのが諸君である。この現代社会の矛盾と真正面から堂々と対峙することも、青春の証しなのかもしれない。この空漠たる競争社会の中で、確固たる目標をもって自らを失わず、逞しく生きてもらいたい。
2023年6月 塾頭 桃原喜信